巨大トーナメント表の左ブロックに、なぜか強豪チームが固まる――都市伝説めいた傾向が毎年のように指摘されてきた「小学生の甲子園」だが、今夏は例外? かもしれない。過去に優勝している6チームのほか、実績のある有力チームが適度にバラけている。そこで開幕直前展望の前半は、元チャンピオンたちを改めて紹介していこう。最も古い1984年の王者、兵庫代表は実に40年ぶりの夢舞台で、当メディアにも初登場。高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、あす8月7日、愛媛県・坊っちゃんスタジアムで開会式を迎える。
(取材=大久保克哉、鈴木秀樹)
(写真&文=大久保克哉)
※一部写真は当該チームの提供です
孤高の記録を更新中

長曽根ストロングス
最高成績=優勝8回※最多記録/2002年、2003年、2005年、2011年、2015年、2016年、2021年、2025年
初出場=2001年/ベスト4
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/2024年
半世紀に迫る伝統の夢舞台だが、3回以上の優勝を遂げているのは1チームのみ。昨夏、その最多V記録を「8回」に更新した大阪の長曽根ストロングスだ。

「これまで8度優勝したといっても、毎回、その年なりの難しさはあります」と語る熊田耐樹監督に、今年のチームについて尋ねると。
「キャプテンの吉見憲眞(=㊤写真)をはじめ山田蒼(=㊦写真)、山田雄大、北原優響、5年生の岡林優志など、去年の大会を経験しているメンバーは順調に成長してますよ。昨年のチームは、力でいったらそこまでなかったけど、気持ちが強かった。比べると、今年は個々の力はあるけど、気持ちの面ではまだ、物足りないところもあるかな…」

投球は1週間で210球まで、との新ルールが2026年から導入されているが、影響を最も受けると思われるのはこの全国舞台。なぜなら、競技は6日連続。1回戦から決勝まで進むと6連戦になるからだ。
さしものV8監督も、新ルールについては「ちょっと悩みます」と打ち明ける。投手陣は5枚、エースは山瀬晴だ。
「直前の高野山旗大会は3位で終わりましたけど、ここで試すことができたことがプラスになればええなあ、と思うてます。幸い、ウチは2回戦からなので、1試合分、少ないアドバンテージを生かせたらいいですね」(熊田監督)
全員ジョーカー!?

多賀少年野球クラブ
最高成績=優勝2回/2018年、2019年
初出場=2000年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/2016年
長曽根と並ぶ19回目の全国出場。そして孤高の連続出場記録を「9大会連続」に更新したのは、滋賀の多賀少年野球クラブだ。
過去2回の優勝でも、進化を止めない“カリスマ”こと辻正人監督は「脱・スポ根」を経て「令和の根性野球」を標ぼう。その下には今や150人の小学生が集まっている。

何年ぶりかに「スーパー4年生」も台頭。万能タイプの関沢だ
「昔と違って、今は圧倒的に試合数が少ないので、逆に個人の能力が上がっていくんです。例えば3時間あるなら、2試合しようというのが昔で、今は練習しようというスタイルなので」(同監督)
そうして個々が成長した結果、「レギュラー9人」の概念が薄れつつある。6年ぶりにメダルを手にした昨年は、1回戦から準決勝まで5試合で、登録25選手のうち22人までがフィールドでプレー。今年はそれ以上の全選手出場があるかもしれないという。
「サッカーでは、後半から出てくるフレッシュな選手が『ジョーカー』と呼ばれて活躍してましたけど、今の多賀は半分の選手がジョーカー。いや、『全員ジョーカー』かも(笑)。疲れてない子を使っていくので、6日間やるとしたらスタメンが毎日そっくり入れ代わる可能性もある」

となれば、「210球」の新ルールにもそこまで神経質になる必要もなく、ケガ予防というルールの大義にも通じる。いかにも、“一石三鳥”を十八番とする指揮官らしい発想だ。
とはいえ、軸はいる。『2026注目戦士❻』でも紹介した右腕、岸本來登だ(=㊤写真)。昨年も全国のマウンドを経験しており、球速は110㎞を越えてきているという。
また多賀としては、久しぶりに「スーパー4年生」も台頭。背番号70の関沢勇吾で、投手も捕手も外野手もやる万能タイプ。「特に外野のスタートがめちゃめちゃ速いので、楽しみにしています」(辻監督)
“整い野球”で3度目!?

※写真は2025年の全国2回戦
新家スターズ
最高成績=優勝2回/2023年、2024年
初出場=2017年/2回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=2回/2015、2019年
2023年から2連覇を遂げた大阪の新家スターズは、走攻守のいずれも磐石な“整い野球”が記憶に新しい。全国大会も5年連続出場と、すっかり日本屈指の強豪チームとなっている。
昨年は2回戦で多賀に敗れて、史上初の「3連覇」の偉業はならず。それでも、その一戦で全国デビューした6選手が、今年はチームの屋台骨となっている。

「去年から出ている6年生たちが、しっかりと引っ張ってくれている。キャプテンの井谷陽輝(=㊤写真)を筆頭に、マジメキャラが多いのが今年の特長です」と吉野谷幸太監督。
一方、ハメを外すようなヤンチャ坊主がおらず、「緊張や重圧から力を発揮しきれないこともある」と歯がゆさも。「力はあると思うので、どう乗せるか、というのがベンチのひとつのテーマです」(同監督)
昨年は故障のためスタメンで出られなかった西村禅が、攻守の要。また2年前に連覇を果たしたときの藤田凰介主将(現中2)の弟、蓮介(=㊦写真)は一番・中堅でナインをリードする。

1回戦を突破したとすると、2回戦では隣県の兵庫・香寺クラブジュニア(下記参照)との「元王者対決」の可能性も。実現すれば大いに注目されることだろう。
指揮官は42年前のV戦士

香寺クラブジュニア
最高成績=優勝/1984年
初出場=1984年
【全国スポ少交流】
出場=なし
2回戦で新家と一戦交える可能性がある香寺クラブジュニア(兵庫)は、1984年の第4回大会で優勝。2年後の1986年に2回目の出場で初戦を突破している。
「小学生の甲子園」も当時は黎明期。香寺が出場した2大会は、27チームによるトーナメント戦だった。全47都道府県のチャンピオンが出場するようになったのは、1988年の第8回大会から。また、日本マクドナルドの特別協賛が始まったのは1986年だった。

さて、香寺は実に40年ぶりの全国大会となる。産声をあげた赤ん坊が成人するまでの倍となる、長い時間のブランク。さすがに42年前の日本一を知る人物もいないかと思われたが、「いてます!」との返答。取材に応じてくれたのは、6年生の父母から選出された組織「育成会」の赤木豊会長だ。
「小幡邦昭代表が40年前の監督で、常陰智秋監督が優勝したときのメンバーなんです。背番号29の上月進コーチも、全国優勝したときからの指導者やと聞いています」
今年は6年生14人の一体感が最大の長所。それぞれが懸命に役割をこなしつつ、仲間を励まして支え合う。そうした“全員野球”で、ハイレベルな兵庫大会を勝ち抜くことができたという。中心となるのは、坪田旺大主将だ。
「エースで一番バッター。プレーでもチームを引っ張ってくれる、頼もしいキャプテンです」(赤木会長)
目標はもちろん、2回目の全国制覇だ。
神のいたずらにも抗う

西南部サンボーイズ
初出場=1994年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=なし
高円宮家から賜杯が下賜されたのは、1997年の第17回大会。また北信越地区から初の日本一が生まれ、同賜杯も授かったのは2009年のこと。成し遂げたのは、石川県の西南部ボーイズだ。
OBでもある北川貴昌監督が就任したのは、その日本一の後。そしてチームを14年ぶりに夢舞台へ導いたのは2年前の2024年だった。当時は6年生が4人の若いチームで、1回戦で愛知・北名古屋ドリームス(※今大会も出場)に完敗。

大矢楓牙ら、確実に計算できる投手陣が数枚
昨夏に貴重な経験を積んだ下級生たちが、現在の主力。『2026年注目戦士❾』で紹介した“小さな怪腕” 須藤敬介を筆頭に、6年生7人はいずれも能力が高い。
「堂々と一時代を築いたチームでありますし、子どもたちと目指しているのは全国1位。そのために自分たちのできる野球を整えてきました」と北川監督。伝統的に堅守をベースとするが、今年は打線も活発だ。県予選でも、波状攻撃によるビッグイニングも度々だった。

2年前に煮え湯を飲まされた北名古屋とは、実は組合せ抽選前に「全国大会壮行試合」をしたばかりだった。そしてまた今回も、壮行試合(=㊤写真)の後に組合せが決まり、北名古屋の名前がトーナメント表の3つ隣に…。

直接対決があるとすれば3回戦になるが、相原咲也主将(=㊤写真)は事前に頼もしいコメントを残していた。
「目標は全国制覇です。北名古屋とまた対戦することになったら? 絶対に勝ちます!」
主将の宣言通り、3回戦どころか一気に突っ走る実力と気概のある今年のチームだ。
覚悟が世界を変える!!

※写真は2025年の全国1回戦
東16丁目フリッパーズ
初出場=1992年/3回戦
最高成績=優勝/2017年
【全国スポ少交流】
出場=1回
「大人は無理でも、小学生は1日で変われる。そういう気持ちで、毎日が決勝戦の感覚でいこうや!」
2017年王者の東16丁目フリッパーズ(北海道南)の笹谷武志監督は、7月末の高野山旗を経て、選手たちにそういう声掛けをしているという。詩人や哲学者ではないが、ただでは転ばぬ賢い指揮官だ。

「今回の高野山はちょっと不利な日程で、ウチは3回戦と準々決勝がダブルで組まれていたんです。でも3回戦で、あの大阪の新家スターズさんに勝つことができた。それはなぜかと言えば、本気の覚悟があったから。またそういう世界に身を置くと、子どもは自然に変わっていくことを実感しました」
昨年は3回戦で多賀に敗北(=㊦写真)。出場していたのは全員上級生だったことから、今年は6年生11人にとって初の夢舞台でのプレーとなる。走塁を駆使して1点をもぎ取るなど、巧みな野球が伝統だが、今年は例外のようだ。
「特徴は力のない、強さのないチーム。たまたま打力が良くて、そのほかは平均以下ですね」(同監督)

注目は4年生の“未来モンスター”予備軍、山内奏人だ。「6年生も含めて、誰よりデカいけど上手なんです」と、指揮官も太鼓判。
組合せ表を見ると、同じブロックには昨年ベスト8の木屋瀬バンブーズ(福岡)と同16強の弘前レッドデビルズ(青森)に、V候補と目されるレッドサンズ(東京)とラウンダース(山梨)、さらに元王者の多賀もいる。激戦必至だが、指揮官は冒頭の言葉を本番前にも口にすることだろう。
